SIMULATION CHECK GUIDE
営業マンから手渡された1枚のシミュレーション。「年間発電量5,800kWh」「10年で元が取れます」——その数字を見て、思わず前のめりになった。でも帰宅後、ふと不安がよぎる。この数字、本当に信じていいの?
実は、その不安は正しい。太陽光発電のシミュレーションには、業者によって「盛り方」に差がある。楽観的な前提で計算すれば、数字はいくらでもよく見える。でも、屋根に載せた後で「話が違う」と気づいても遅いんです。
シミュレーションは太陽光発電の「見積書の心臓部」。ここを正しく読めるかどうかで、数百万円の投資が「大成功」にも「後悔」にもなる。
この記事では、業者のシミュレーションに潜む5つの落とし穴と、自分で検算するための計算式、そしてプロが必ずチェックする項目をわかりやすく解説します。「数字に強くなくても大丈夫」——読み終わるころには、営業トークの裏を読めるようになっているはずです。
情報基準日:2026年2月
SECTION 01
シミュレーションとは何か?2種類の違いを理解する
「シミュレーション」と一口に言っても、実は2種類あります。この区別がついていないと、業者の説明を正しく理解できません。
①発電シミュレーション——「どれくらい電気を作れるか」
パネルの容量、設置場所の日射量、屋根の向きや角度、損失係数をもとに、年間の発電量(kWh)を予測するもの。いわば「物理的な能力の予測」です。
信頼できるシミュレーションは、国の規格「JIS C 8907」の計算式とNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の日射量データベースに基づいています(出典:JIS C 8907:2005、NEDO日射量データベース)。
②事業シミュレーション——「いくら得するか」
発電量をベースに、売電収入、自家消費による電気代削減、補助金、初期費用、維持費を組み合わせて「何年で元が取れるか」を算出するもの。こちらは「お金の予測」です。
落とし穴が多いのは、圧倒的にこっちのほう。発電シミュレーションがある程度正確でも、事業シミュレーションの前提が甘ければ「数字のマジック」になります。
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SECTION 02
業者のシミュレーションに潜む5つの落とし穴
「怪しいと思いますよね。数字で説明します。」
ここからが本題。業者が出してくるシミュレーションで、特に注意すべき「落とし穴」を5つ挙げます。どれか1つでも当てはまっていたら、そのシミュレーションは再確認が必要です。
落とし穴①:損失係数(ロス率)が甘すぎる
発電量の計算には「損失係数」という数字が使われます。配線ロス、パワコンの変換ロス、パネルの汚れ、影の影響など、実際の発電量を理想値から差し引くための補正値です。
太陽光発電協会(JPEA)のガイドラインでは、この損失係数は70〜80%が標準的とされています。つまり、理想的な発電量の20〜30%はロスとして差し引くのが妥当。ところが、一部の業者は85%や90%で計算している。たった10%の違いでも、年間発電量は数百kWh変わります。
落とし穴②:経年劣化を無視している
太陽光パネルは年を経るごとに少しずつ出力が下がります。年間の劣化率はパネルの種類によりますが、一般的に年0.3〜0.7%程度。20年間で6〜14%の出力低下です。
にもかかわらず、20年間ずっと初年度の発電量で収支を計算しているシミュレーションがある。これは明らかに楽観的すぎます。JIS C 8907でも経時変化補正係数KPD(標準値0.95)を考慮するよう定められています。
落とし穴③:自家消費と売電の計算が矛盾
「電気代が年間○万円下がります」と書いてあるのに、売電収入の計算では発電量の全量を売電している——こんな矛盾したシミュレーションが、じつは珍しくありません。
自家消費した分は売電できない。当たり前のことですが、計算上では「いいとこ取り」をしている業者がいます。電気代削減額と売電収入の合計が、発電量から逆算して辻褄が合うか、必ず確認してください。
落とし穴④:売電単価が古い・将来の電気代値上げを前提にしている
2026年度のFIT売電単価は、10kW未満で16円/kWh。数年前の高い単価のまま計算されているケースがまだあります。逆に、「電気代は年3%上がる」という楽観前提で自家消費メリットを水増ししているパターンも。電気代の値上がりは予測不能。保守的に見るのが正解です。
なお、今の太陽光発電は「売電で儲ける」時代から「自家消費で電気代を減らす」時代に完全にシフトしています。電気料金の単価が30円/kWh前後の家庭なら、売電するより自分で使った方が圧倒的にお得。シミュレーションでも、自家消費率をどう見積もっているかが収支の分かれ目になります。
落とし穴⑤:維持費・修繕費が計上されていない
パワコンの交換(10〜15年に1回、15〜30万円程度)、定期点検費用、保険料。これらを20年間のシミュレーションに含めていない業者は要注意。
実例 ─ 北九州市 鈴木さん(3人家族・築8年・寄棟屋根)
業者Aのシミュレーションと実際の発電量に年間15%の乖離が判明
業者A提示の年間発電量
6,200kWh
セカンドオピニオン後の補正値
5,270kWh
損失係数85%→73%に補正。近隣建物の影と経年劣化を加味。投資回収年数は8年→11年に修正。※実績に基づくイメージです
セカンドオピニオンとは
他社で「設置できない」と言われた屋根でも、パネルの種類や工法を変えれば対応できるケースがあります。1社の判断だけで諦めるのは、もったいない。セカンドオピニオンは無料です。
SECTION 03
自分で検算する方法(JIS C 8907の計算式)
「ここ、正直ややこしいんですが。要するに、掛け算を4回やるだけです。」
国の規格であるJIS C 8907が定める発電量の計算式は、意外とシンプル。電卓で十分計算できます。
発電量の計算式(JIS C 8907ベース)
年間発電量(kWh)= パネル容量(kW)× 年間日射量(kWh/㎡)× 損失係数 ÷ 1
正式にはEp = K’ × K × P × H ÷ Gs。K’は基本設計係数(0.75〜0.85)、Kは温度補正係数、Pはアレイ出力、Hは傾斜面日射量、Gsは標準日射強度1kW/㎡。
ステップ①:NEDOで日射量を調べる
NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の日射量データベース閲覧システム(NEDO日射量DB)で、設置場所に近い地点の「月平均日積算傾斜面日射量」を確認します。屋根の方角と傾斜角に対応する値を選んでください。
たとえば福岡市で南向き30度の場合、年間の平均日射量は約3.8〜4.2kWh/㎡/日程度です。年間に換算すると、3.8 × 365 = 約1,387kWh/㎡。
ステップ②:計算してみる
たとえば、5kWのシステムを福岡市に設置する場合。
| 項目 | 数値 | 備考 |
|---|---|---|
| パネル容量 | 5 kW | カタログの公称最大出力の合計 |
| 年平均日射量 | 3.9 kWh/㎡/日 | NEDO DB(福岡・南30度) |
| 損失係数 | 73%(0.73) | JPEA標準の範囲内で保守的に設定 |
| 年間発電量 | 約5,197 kWh | 5 × 3.9 × 365 × 0.73 ÷ 1 |
この数字が、業者の出してきた発電量と大きくずれていないか比較する。±10%以内なら許容範囲、15%以上のずれがあるなら根拠を確認すべきです。
アドバイス
正直なところ、計算式の細かい部分はプロに任せればいい。大事なのは「自分でざっくり検算できる感覚」を持つことです。電卓で出した数字と業者の数字が2割もずれていたら、それだけで「なぜ?」と聞ける。その一言が、何十万円もの損を防ぐこともありますから。
SECTION 04
プロがチェックする7つの確認項目
「結論だけ知りたい方は、このチェックリストだけ見てください。」
業者からシミュレーションをもらったら、以下の7項目を1つずつ確認するだけで、そのシミュレーションの信頼度がわかります。
- ①日射量の根拠——NEDOデータを使っているか?独自データなら根拠は何か?
- ②損失係数の値——73%前後が標準。80%超なら「なぜ高いのか」確認する
- ③経年劣化の反映——20年間同じ発電量になっていないか?年0.4〜0.7%の劣化を見込んでいるか?
- ④自家消費率の整合性——電気代削減と売電収入が矛盾なく計算されているか?
- ⑤売電単価の年度——2026年度の正しい単価で計算されているか?
- ⑥維持費の計上——パワコン交換費用(15〜30万円)、定期点検費、保険料が含まれているか?
- ⑦影・遮蔽物の考慮——近隣建物や電柱、樹木による影がシミュレーションに反映されているか?
実例 ─ 福岡市南区 山田さん(夫婦2人・築15年・切妻屋根)
7項目チェック後、補助金3重取りで回収期間を3年短縮
当初の回収見込み
12年
補助金3重取り適用後
9年
シミュレーションは適正値に修正しつつ、国+県+市の補助金併用で初期費用を約85万円圧縮。※実績に基づくイメージです
補助金3重取りとは
国の補助金、県の補助金、市の補助金。この3つは、併用できるケースがほとんどです。うまく組み合わせれば、最大100万円以上の補助金になることも。「1つだけ」で申請している人が、実はかなり多いんです。
3つの補助金、全部使えるかは屋根の状態と設置条件次第。
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SECTION 05
正確なシミュレーションを出してもらう方法
「めんどくさそう」と思った方。大丈夫です。ポイントは3つだけ。
-
1
最低2社から見積りを取る
1社だけでは比較ができない。同じ屋根でも、業者によって発電量の予測が10〜20%異なることは珍しくありません。2社の数字を並べるだけで「甘い方」がすぐわかります。
-
2
「根拠を見せてください」と言う
日射量データの出典、損失係数の設定値、劣化率の前提を聞く。答えられない業者は、そもそもまともなシミュレーションを作っていない可能性が高いです。
-
3
「悲観シナリオ」も出してもらう
「平均的な年」だけでなく「日照が少ない年」のシミュレーションも依頼する。NEDOデータベースには「寡照年」のデータもあります。それでも投資回収が成立するなら安心材料になります。
BCソーラーとは
変換効率26.5%。一般的なパネルの約半分の重さ。裏面電極配置で、光の受光面積を最大化。つまり「軽くて、よく発電する」パネルです。屋根への負担が心配な方にこそ、知ってほしい選択肢です。
アドバイス
「シミュレーションの根拠を教えてください」——この一言が言えるだけで、対応がガラッと変わる業者がいます。丁寧に説明してくれる業者は信頼できる。「ソフトが出した数字なので」と濁す業者は、ちょっと考えたほうがいいかもしれません。
FAQ
よくある質問
SUMMARY
まとめ——「数字を読める人」は、損をしない
冒頭の話に戻ります。営業マンから手渡された1枚のシミュレーション。「年間5,800kWh」「10年で元が取れます」。
この記事を読んだあなたは、もう「甘いシミュレーションを信じて、思った通りに発電しない未来」に向かう人ではありません。損失係数、経年劣化、自家消費率。たった3つの数字を確認するだけで、業者のシミュレーションが「信頼できるもの」か「盛られたもの」かを判断できる。
この記事のポイントまとめ
- シミュレーションには「発電量の予測」と「収支の予測」の2種類がある。混同しない
- 損失係数は70〜80%が標準。85%超は甘すぎる可能性が高い
- 経年劣化(年0.3〜0.7%)を20年分反映しているか必ず確認する
- 自家消費と売電の計算が矛盾していないか、数字で逆算チェック
- パワコン交換費(15〜30万円)などの維持費が含まれているか確認
- JIS C 8907 × NEDOデータで自分でもざっくり検算できる
- 最低2社から見積りを取り、「根拠」を聞くだけで精度が上がる
- 補助金3重取り(国+県+市)で、回収期間は大幅に短縮できる
監修者コメント
シミュレーションは「業者を信じるか信じないか」の問題じゃないんです。「どの前提で計算したか」の問題。前提がわかれば、自分で判断できる。私は現場で何百件も設置を見てきましたが、「思った以上に発電しない」という不満の大半は、シミュレーションの前提が甘かったことに原因があります。逆に、最初から保守的な見積りをもらって設置した方は「思ったより発電してるよ」と笑顔になる。この記事のチェックリストを使って、ぜひ「嬉しい誤算」を経験してほしいですね。
この記事を読んだあなたは、もう「知らずに損する人」ではありません。
次は、あなたの屋根の「本当の数字」を確認する番です
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※記事内の実例は実績に基づくイメージであり、個別の成果を保証するものではありません。
経験談
現場にいて感じるのは、お客さんの多くが「発電シミュレーション」と「事業シミュレーション」をごちゃ混ぜにして理解していること。業者側も、意図的か無意識かはさておき、両方を1枚の紙に混ぜて出してくるケースがあります。まず「これは発電量の話ですか?お金の話ですか?」と聞くだけで、かなり見え方が変わりますよ。